VTuberを活用した地方創生:若年層の心を動かす新しい地域ブランディング
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少子高齢化、都市部への人口集中、観光需要の二極化――。多くの自治体や地域企業が「良いものを作っても若者に届かない」という共通の悩みを抱えています。
従来の広報手法(パンフレット、行政HP、新聞広告など)は、情報発信の網羅性では優れる一方で、Z世代・α世代への訴求力という点では限界があります。
そうしたなかで注目されているのが、VTuber(バーチャルYouTuber)による地方創生施策です。
キャラクターを通して地域の魅力を語る。
そのアプローチは単なるPRではなく、「親しみ」「共感」「参加」を生み出す新しい地域ブランディングの形になりつつあります。
地方創生における3つの課題
まず、現場で多くの自治体・地域企業が直面している課題を整理します。
| 課題領域 | 現状と課題感 | よくある悩み |
|---|---|---|
| 若年層との接点 | 若者が行政サイトや紙媒体を見ない | SNS・動画経由でしか情報収集しない層に届かない |
| 広報人材の不足 | 広報担当が兼任であったり、ノウハウが属人化している | 継続的な企画運営が難しい |
| 費用対効果の不透明さ | 一度きりのイベントで終わってしまう | 成果が定量化されず、次年度に予算化しにくい |
これら3点の共通項は、「情報を出す」ことが目的化し、本来の“人を動かす”設計が欠けている点にあります。 ここでVTuberを活用すると、若年層との接点づくりと継続的な発信体制を同時に構築することが可能になります。
なぜ今、VTuberが「地方創生」と相性が良いのか
VTuberはもともとエンタメやゲーム配信の文脈から広がりましたが、いまや「企業広報」「観光プロモーション」「教育・自治体施策」にまで活用が進んでいます。
特に地方創生との親和性が高い理由は、以下の3点です。
① 若年層とのコミュニケーションチャネルを持つ
Z世代の約7割が「キャラクターやVTuberを通じた情報発信に好感を持つ」と回答する調査もあり、彼らにとっては“広告ではなく、推しの発信”として自然に受け入れられます。
② “顔が見えない”自治体に“声”と“人格”を与えられる
行政や地域ブランドは、「硬い」「距離がある」と思われがちです。
VTuberを通してキャラクター性を持たせることで、行政や地域に親近感を生み出すことができます。
③ 発信→交流→体験の循環を生み出せる
動画配信・SNS投稿・リアルイベントの3軸を掛け合わせることで、「知る→好きになる→訪れる」という行動循環をつくれます。
VTuber活用の3モデル
VTuberを地方創生に取り入れる方法は大きく3タイプに分かれます。
導入目的や予算によって最適解は異なります。
| モデル | 概要 | 主なメリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自治体公式VTuber型 | 自治体が自らVTuberを制作・運用 | 継続的な広報とブランド統一が可能 | 運用ノウハウとコストが必要 |
| コラボ起用型 | 既存VTuberをアンバサダーとして起用 | 立ち上がりが早くファン層に届けることが可能 | キャラクター選定の慎重さが必要 |
| キャンペーン連動型 | 期間限定でコラボ・配信を実施 | 費用を抑えて効果検証が可能 | 単発で終わらない設計が必須 |
モデル別の事例
ここからは、実際にVTuberが地方自治体と連携し、地域発信にどのように貢献しているのか、それぞれのモデルについて、事例を見てみましょう。
自治体公式VTuber型:茨ひより(茨城県)
茨城県が運営する公式VTuber「茨ひより」は、自治体自らがキャラクターをプロデュースしている全国でも先進的な事例です。県の観光や特産品、イベント情報をYouTubeやX(旧Twitter)で発信し、彼女が出演する「いばキラTV」のチャンネル登録者数は15万人を突破しています。
「行政×VTuber」という新しい広報の形を確立し、県民への認知拡大だけでなく、若年層の関心喚起や県外ファンの獲得にも成功しています。
コラボ起用型:春日部つくし(埼玉県)
埼玉バーチャル観光大使を務めるVTuber「春日部つくし」は、観光施策や地域イベントとのコラボレーションを積極的に展開。市の観光キャンペーンやご当地フェスへの出演を通して、地域イベントの集客力アップに貢献しています。
地元企業とのタイアップも多く、地域ブランドの向上に寄与しており、ファンからも高く評価されています。
キャンペーン連動型:八幡平市(岩手県)
岩手県八幡平市は、VTuberを活用した地域活性化プロジェクト「まちスパチャプロジェクト」に参画。VTuberを起用して、観光名所・特産品を若年層に向けて発信するとともに、地元企業と連携した限定コラボ商品の販売など、キャンペーン型の展開を行っています。

成功する「VTuber地方創生」3つの共通点
VTuber活用は一過性のキャンペーンではなく、「地域ブランド育成の仕組み」を意識して設計することが重要です。ここでは、成果を上げている自治体施策に共通する3つのポイントを紹介します。
共通点①:発信だけでなく“共創”を設計している
単なる情報発信にとどまらず、地域住民・企業・ファンが一緒に作り上げる仕組みを設けることで、継続的な関係が生まれます。
具体例
- VTuberが地元企業の商品を紹介し、購入者特典で「限定ボイス」などを付与
- ファンから地域PR案を募集し、人気投票で採用
- イベントをAR・メタバース空間で再現し、遠方の参加も可能に
このような“体験参加型”の仕組みを作ることで、発信の一方通行を防ぎ、地域への愛着を促します。
共通点②:KPIを明確に設定している
VTuber施策の目的は「バズ」ではなく、行動につながる指標を持つと継続しやすくなります。
そのためには、目的別にKPIを設定する必要があります。
| 目的 | KPI指標 | 施策例 |
|---|---|---|
| 認知拡大 | SNSフォロワー数、動画再生数、メディア掲載数 | VTuberによる観光スポット紹介、SNSキャンペーン |
| 来訪・購買促進 | 観光予約数、ふるさと納税件数、EC売上 | VTuberが特産品を紹介し、URL経由で購入導線を設定 |
| ファンコミュニティ形成 | イベント参加者数、アンケート反応率、Discordメンバー数 | オフラインイベント・ファンミーティングの開催 |
共通点③:長期的に運用できる体制を構築
VTuber施策は担当者個人のスキルに依存しがちですが、持続可能な運営体制を整えることで成功確率が上がります。具体的には、制作会社・VTuber事務所・自治体・地域企業などと連携した形が理想です。
また、「Alive Project byGMOペパボ」が提供している企業向けプロモーションサービスのような支援会社と連携することで、目的や予算に応じたプロモーションが可能です。キャスティングだけでなく、配信企画や進行管理のサポートも行っており、初めてVTuber案件を依頼する企業でも安心して活用できます。
導入時に注意すべきポイント
導入を検討する際には、次の点を押さえておくとスムーズです。
- 費用感の把握
キャラクター制作費(50〜300万円)、配信環境整備費、運用人件費など、初期投資が必要です。 ただし既存VTuberとのコラボなら10〜50万円から実施可能な場合もあります。 - 炎上・著作権リスクの管理
発言ガイドラインや契約範囲を明確化し、炎上時の対応フローを用意することが重要です。 - 地域のリアル施策との連携
オンラインでの発信だけでなく、現地イベント・スタンプラリー・物産展などリアル側の動線設計が成功の鍵となります。
VTuber活用がもたらす“波及効果”
VTuberを地方創生に取り入れることで、単なるPR以上の効果が期待できます。
| 効果領域 | 内容 | 期待できる成果 |
|---|---|---|
| 情報発信力 | SNSや動画で拡散されやすい | 認知度の向上 |
| ブランド親近性 | キャラクターが地域の顔になる | 若年層との関係構築 |
| 地域経済の循環 | コラボグッズ・ふるさと納税・観光誘致といった経済効果を得られる | 地域経済活性化 |
| コミュニティ形成 | ファンや住民が“推す”ことでコミュニティを形成する | 持続的な関係構築 |
まとめ
VTuberは、地方創生の文脈で「若者へのリーチ」「ストーリーテリング」「共感創出」という3つの課題を同時に解決できる存在です。しかし、単にVTuberを作るだけ・呼ぶだけでは意味がありません。
重要なのは、“誰に何を届けたいのか”を明確にし、発信・参加・継続の三拍子を揃えること。地域の本当の魅力は、地元の人が語る言葉と、外から応援する人の共鳴があってこそ伝わります。VTuberはその「架け橋」として、地方に新しい風を吹かせる可能性を秘めています。
