VTuberで加速する“推し活”型ふるさと納税返礼品PR ― 若年層に響く自治体の新戦略

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「ふるさと納税の返礼品PRをどう差別化すればいいのか?」
近年、寄附額は年々増加する一方で、参入する自治体や返礼品数も急増。
その結果、寄附者に選ばれるためには“モノの魅力”だけでなく、「どんなストーリーで伝えるか」が鍵となってきています。
とくに課題となっているのが、若年層への認知と関心の獲得です。20〜30代は寄附余力が増えつつある一方で、ふるさと納税に対する関与度が低く、制度そのものに「難しそう」「遠い話」という印象を持つケースが多いと言われます。
この層にリーチする手段として注目を集めているのが、VTuber(バーチャルYouTuber)を起用した返礼品PRです。
VTuberは近年「推し活」文化の中心的存在として、SNS・動画配信を通じて圧倒的な発信力を持ちます。
VTuberを通じて“応援”と“寄附”を結びつける新たなアプローチが、いま各地の自治体で広がりを見せています。
本記事では、制度の基礎から、VTuber起用の背景、具体的な事例、導入ステップや注意点までを整理。
返礼品PRを強化したい自治体・企業の広報担当者に向けて、次世代のふるさと納税戦略を解説します。
ふるさと納税と返礼品PRの重要性
まずは、ふるさと納税制度と返礼品PRの意義を改めて整理します。
ふるさと納税とは、居住地以外の自治体に寄附をすることで、住民税・所得税の控除を受けられ、その自治体から返礼品を受け取れる制度です。
単なる寄附ではなく、地域の特産品や文化、観光資源を全国へ発信する「地域ブランドの入り口」として機能しています。
自治体側にとって返礼品は「お礼」ではなく、地域経済や生産者の魅力を伝える一次的な情報発信手段です。
しかし、現在は全国1,700以上の自治体が同制度を実施し、競合環境は年々過熱傾向に。いかにして自分たちの返礼品を知ってもらい、寄附という行動につなげるかが、自治体広報の新たなテーマとなっています。
特に「知名度が低い地域」ほど、返礼品PR=地域の認知拡大という意味を持ち、商品そのものの販促だけでなく「まちを知ってもらう」ための重要なきっかけとなります。
なぜ今VTuber が返礼品PRに効くのか
では、なぜ自治体がいまVTuberに注目しているのでしょうか。
その背景には、若年層の情報接触行動の変化と推し活文化の定着があります。
若年層・ファン文化へのリーチ
VTuberは10代〜30代を中心に支持を集め、YouTubeやX(旧Twitter)、TikTokなどのSNSでの拡散力に優れています。
この層に向けたPRにおいて、動画・キャラクターを介した共感訴求は欠かせないものとなっています。
ファンの“推し活”と寄附の接点化
「推し活」とは、自分の好きなキャラクターやVTuberを応援する活動全般を指します。
その原動力は“好きな存在に貢献したい”という感情。
自治体がVTuberを返礼品PRに起用することで、ファンの応援行動=寄附へと自然につなげることが可能になります。
実際に「推しの活動を通じて地域にも貢献できる」という構図は、ファン心理にマッチしやすい仕組みといえます。
返礼品の魅力を“語れる”PR手法
VTuberが返礼品を自ら体験・紹介することで、写真や文章だけでは伝えきれない“温度感”や“物語”が生まれます。
視聴者が「推しが食べていた」「推しが紹介していた」という記憶で地域を認知するケースも多く、感情とともに記憶に残るのが強みです。
UGCによる認知拡散
さらに、ファンによるUGC(ユーザー生成コンテンツ)効果も大きいポイントです。
推しの配信やコラボ返礼品をきっかけに、SNS上で感想投稿・イラスト・動画などが自然に生まれ、地域の情報が“口コミ型”で広がる好循環が生まれます。
活用事例紹介:VTuber×返礼品PR
複数の自治体がすでにVTuberとの連携を進めています。
ここでは、実際に注目されている自治体の導入事例を紹介します。
事例①:宮崎県新富町
2025年9月、宮崎県新富町が人気VTuber2名を起用し、ふるさと納税促進プロジェクトを実施。返礼品(うなぎ・ライチなど)を紹介するPR動画・ライブコマース配信・コラボグッズ制作・特設LP開設といった仕掛けを展開。
この取り組みにより、若年層・VTuberファン層へのリーチ強化と、町の魅力発信という二軸を同時に実現しています。
出典元:“推し”に寄附!? VTuberと楽しむふるさと納税、宮崎・新富町から全国へ
事例②:岡山県新見市(“まちスパチャプロジェクト”)
「まちスパチャプロジェクト」として、VTuber約40名を起用。漫画・生配信・コラボ返礼品開発を通じて、新見市のふるさと納税寄附数が「一昨年の約2倍」まで増加。
返礼品の内容だけでなく「コンテンツ体験そのものを返礼品周辺に構築する」ことで認知→行動へとつなげています。
出典元:一昨年の約2倍のふるさと納税寄附数に!VTuber出演の漫画で岡山県新見市の魅力を発信し、まちの認知とふるさと納税の拡大に成功!
事例③:富山県舟橋村
2025年8月、VTuber「雪咲ゆうか」さんとのコラボで、鱒寿司をふるさと納税返礼品として提供。寄附者にはデジタル特典としてオリジナルデートボイスも配布。。
このような「返礼品+VTuberコラボ+デジタル特典」の組み合わせは新しい寄附設計として注目されています。
出典元:富山県舟橋村がVtuber「雪咲ゆうか」とコラボ!富山名物の鱒寿司をふるさと納税の返礼品として提供開始
VTuber活用による返礼品PR成功のポイント
成功事例から見えてくる、導入時のポイントを整理してみましょう。
単なる話題化で終わらせず、“寄附意欲”へとつなげるには、次の5つの視点が重要です。
ターゲットを明確化する
若年層やVTuberファン層の属性(年齢・趣味・購買傾向)を分析し、親和性の高いキャラクターを選定します。
たとえば、アニメ・ゲーム文化に関心が高い20〜30代を狙うなら、声優系やゲーマー系VTuberとの相性が良いです。
また、「どんなストーリーで」届けるのかを明確にすることも大切です。
例:「地域の特産品を“推し”が紹介してくれる」→「推しを通して地域を知る」→「寄附して一緒に応援する」
このような一連の感情の流れを意識すると、企画全体の一貫性が生まれます。
返礼品+体験価値を設計する
VTuber出演の動画や限定グッズ、特典ボイスなどを“体験”としてパッケージ化します。
ただの物販ではなく、「参加して楽しい」「推しと一緒に応援できる」仕掛けづくりが重要です。
たとえば、
- 寄附者限定のオンラインイベントに招待
- 地元の名産をVTuberが実食紹介する配信
- 返礼品に“限定コラボパッケージ”を採用
といった演出を組み合わせることで、ファン心理を刺激し、SNS上での拡散効果も高まります。
特に「地域×推し活」施策では、“グッズより体験”が記憶に残りやすく、次年度以降のリピーター創出にもつながります。
発信チャネルを多層化する
YouTube配信だけでなく、XやTikTokなど複数チャネルでの展開が鍵です。
ショート動画・切り抜き動画など、プラットフォームごとの特性に合わせた発信を行いましょう。
さらに、広報期間を「発信前」「発信中」「発信後」の3フェーズに分けて、話題化を持続させるのも効果的です。
- 発信前:ティザー動画で注目喚起
- 発信中:リアルタイム配信でトレンド入りを狙う
- 発信後:まとめ動画や切り抜き動画で再拡散
特に寄附のピークが集中する年末には、発信や投稿を重ねることで寄附額の最大化が期待できます。
成果指標を設けて検証する
施策の目的を明確化し、定量・定性の両面から効果を検証します。
主なKPIとしては、
- 寄附額・件数の推移
- 動画再生数・視聴数
- SNSでの投稿数・ハッシュタグ利用数
- 地域名や特産品名の検索ボリューム変化
などが挙げられます。
また、寄附後のアンケートで「どの媒体で知ったか」をヒアリングすることで、次回以降のチャネル最適化にも役立ちます。
ブランド整合性・リスク管理を徹底する
VTuberの言動やファン文化が、自治体や地域ブランドに与える影響は少なくありません。そのため、契約段階で発信ルール・肖像利用範囲・炎上時の対応を明文化しておくことが不可欠です。
さらに、地域側の担当者がVTuber文化への理解を深めることも成功の鍵です。
相互理解があれば、演出や言葉選びもより自然で、ファンからの共感を得やすくなります。
返礼品PRにおけるVTuber導入のステップ
ここでは、自治体や担当企業がVTuber施策を導入する際の具体的な流れを整理します。
「どこから始めればいいのか」「何を決めるべきか」が明確になるよう、実際のプロジェクト進行を意識したステップ構成です。
なお、初めてVTuber施策に取り組む場合は、支援会社との連携も有効的です。たとえば「Alive Project byGMOペパボ」が提供している企業向けプロモーションサービスでは、VTuberキャスティングだけでなく、企画・進行管理までトータルにサポートしており、安心してプロジェクトを進めることができます。
① 課題整理・ターゲット定義
まず最初に、「誰に」「何を伝えたいのか」を明確にします。
ふるさと納税の寄附者データや地域経済の課題を分析し、PRで届いていない層(例:若年層・女性など)を特定します。
たとえば、
- 寄附者の中心が40代以上 → 若年層開拓が必要
- 地域特産がアニメ・ゲーム文化と親和性がある → VTuberコラボが有効
- SNSでの露出が弱い → 拡散型キャンペーンを検討
この段階で課題を整理しておくと、後の施策設計がブレにくくなります。
また、「寄附の増加」だけでなく「地域への関心喚起」「継続的なファン化」といった中長期的ゴールも併せて設定しておきましょう。
② VTuber選定・コンテンツ設計
ターゲット層が明確になったら、その層と親和性の高いVTuberを選定します。
選定時には、以下の3軸で評価するのがポイントです。
| 軸 | 内容 | チェックポイント |
|---|---|---|
| ターゲット適合性 | ターゲット層と視聴者層が合うか | ファン属性、年齢層、興味領域 |
| ブランド整合性 | 自治体や地域のイメージと合うか | トーン、発信スタイル、炎上リスク |
| 発信力・影響力 | どの媒体でどのくらい拡散力があるか | YouTube登録者数、SNSフォロワー数 |
コンテンツ設計では、動画・ライブ配信・コラボグッズなどを軸に、 「見て楽しい」「応援したくなる」体験設計を心がけます。
たとえば、
- VTuberが返礼品の製造現場の訪問や紹介
- 寄附者限定の配信イベントを実施
- VTuberの描き下ろしビジュアルを返礼品パッケージに採用
こうした“参加意識を生む仕掛け”が、単なる広告との差を生み出します。
③ 返礼品+体験パッケージ設計
VTuber施策の強みは、「モノ+体験」の融合にあります。
返礼品をただ紹介するのではなく、「ファン心理を刺激する体験」として再構築することが重要です。
例:
- 限定VTuberボイス付き特産セット
- VTuberが食レポする返礼品紹介動画
デジタル特典(限定ボイス、壁紙、ポストカードなど)を組み合わせることで、オンライン完結型の施策も可能。
“モノを買う”ではなく、“推しと一緒に地域を応援する”という感情価値を訴求しましょう。
④ 発信メディア/スケジュール設計
プロモーションでは、マルチチャネル展開と時期戦略が成功のカギです。
| チャネル | 主な役割 | 活用例 |
|---|---|---|
| YouTube | メイン施策・動画公開 | 紹介配信・タイアップ動画 |
| X | 拡散・告知・リアルタイム共有 | 投稿キャンペーン・ライブ実況 |
| Instagram / TikTok | ビジュアル訴求 | 短尺動画・制作裏話 |
| 特設サイト・ポータル | 申込導線・詳細情報 | 限定特典ページ・申込フォーム |
スケジュールは「事前予告 → メイン配信 → 事後拡散」の3段階で設計。
特に寄附の集中期(11〜12月)はリマインド投稿を計画的に行い、継続的に関心を維持する仕組みを作りましょう。
⑤ 寄附受付設計・特典設計
次に、寄附者がスムーズに申し込める導線を整備します。
- 寄附受付ページのデザイン・導線確認
- VTuber施策特設ページをポータルサイト内に設置
- デジタル特典配布(メール・シリアルコードなど)の仕組みを明確化
- ファンがSNS上で体験をシェアできる設計(ハッシュタグ誘導など)
特典を通じて「寄附して終わり」ではなく、寄附後の関係維持を意識した体験づくりが理想です。
⑥ 効果測定・改善施策
実施後は、施策効果を定量・定性の両面から検証します。
定量指標例
- 寄附額・申込件数の増減
- 動画再生数・視聴維持率
- SNSでの投稿数・リーチ数
- 検索トレンド(地域名・返礼品名)
定性指標例
- ファンや寄附者の反応(コメント、アンケート)
- メディア・SNSでの話題性
- 担当者・VTuber双方の振り返り
これらを次年度の施策改善につなげ、継続的な広報戦略として蓄積していくことが重要です。
⑦ 継続展開・ファン化設計
最後に、単発施策で終わらせず「地域とファンがつながる仕組み」をつくります。
たとえば、
- VTuberが毎年登場する「恒例イベント化」
- コラボグッズや特産定期便による継続支援
- オフラインイベント(トークショー・現地訪問)
- 地元企業や観光協会との共同プロジェクト化
“推しを応援する=地域を応援する”という心理を軸に、ファンが自然に地域のサポーターになる導線を育てることが、長期的な成功につながります。
注意点・リスクと対策
VTuber活用は高い話題性と拡散力を持つ一方で、自治体PRという公共性の高い文脈では、いくつかの注意点を押さえておくことが重要です。
導入前にリスクを理解し、運用体制を整えることで、トラブルを防ぎながら長期的な成功につなげられます。
以下では、実施時に特に留意したいポイントを整理します。
- コスト対効果の明確化
VTuber起用や動画制作・ライブ運営にはコストがかかるため、「何をもって成功とするか」を明確にせず進めると費用に見合った成果が得られない可能性があります。 - 発信内容・発言管理
VTuber側の表現が自治体ブランドに影響を及ぼす可能性があるため、発言ルール・契約条件を明確にしておくことが重要です。 - ファン層とのズレによるリスク
VTuberファン=全て寄附層にはなりません。ファン文化を理解し、返礼品価値の設計・寄附ハードルの設計を慎重に行う必要があります。 - 制度設計・返礼品管理
返礼品の発送・特典の付与・寄附受付のフローなどの整備が遅れるとユーザー体験が損なわれます。 - 継続へ向けた設計
一時的なバズで終わるとその後の継続性が低くなります。次年度以降の取り組みも見据えた施策設計が望まれます。
リスクを理解し、準備をしっかり行うことで、VTuberを活用した返礼品PRは安全かつ効果的に進められます。
まとめ
「ふるさと納税 返礼品 PR」という観点で考えたとき、VTuber活用は「若年層/推し活層」に向けた新たな切り口として非常に有効と言えます。自治体・企業が持つ特産品・地域資源と、VTuber・ファン文化というトレンドがかけ合わさることで、従来の“返礼品を選ぶ”という流れを超えて、「推しを応援する」「地域を応援する」という動きに変化する可能性もあります。
ただし、成功にはターゲット設計・体験設計・継続設計といった要素が不可欠であり、単にVTuberを起用すれば成功、というわけではありません。
これから返礼品PRに取り組む自治体・企業は、VTuberを活用した“次世代の返礼品設計”を視野に、企画・発信・検証のサイクルを構築してみてください。



