VTuber界では、個性豊かな配信者たちがそれぞれのスタイルで活躍しています。そのなかでも、ひときわ異彩を放っているのが、元陸上自衛官という経歴を持つVTuber・シナモン三等陸士長(以下、シナモン)さんです。
自衛隊時代の経験をコミックエッセイで発信し、声優としての活動を経てVTuberの世界へ。配信では自衛隊仕込みの勇ましい声と、リスナーに寄り添うキュートな声を使い分け、大喜利企画やストレッチ配信など幅広いコンテンツでファンを楽しませています。
今回は、Alive Studioのアンバサダー0期生でもあるシナモンさんに、知られざる自衛隊のリアルな日常から、VTuber活動への思い、そしてリスナーとの絆についてお話を伺いました。
編集部注:本記事はシナモンさんが現役自衛官だった頃の、陸上自衛隊の特定の駐屯地での体験をもとに構成されており、自衛隊全般の話ではありません。
プロフィール
シナモン三等陸士長(しなもん さんとうりくしちょう)
元陸上自衛隊普通科隊員。
二任期満了で除隊、声優になるが全く売れないまま事務所が潰れたので、セルフ受肉でVtuberデビュー。バ美肉疑惑が再燃しているが、もうおじさんってことにしておこうかなと思い始めている。
YouTube:
シナモン隊員クラブ
X:
@CNMNSN
元自衛官から声優を経てVTuberに
シナモン三等陸士長さん
── まずは、VTuberを始めたきっかけを教えてください。
シナモンさん
もともと自衛隊時代のことをコミックエッセイとして描いていて、その頃から周りに「VTuberになったら」とは言われていたんです。でも、当時は動画も声を出すことも一切やっていなかったので、「VTuberなんて私なんかにはとてもとても」と思っていました。
── それが、なぜVTuberを始めることに?
シナモンさん
X(旧Twitter)のスペース(Xのライブ機能)をたまたま誤タップで開いちゃってたんですよ。しばらく気付かずにいたら、いつの間にか同時接続が300人くらいいて。「もしかしてみんな、私が喋るのを聞きたいのか? 俺結構人気者じゃん」って(笑)。自分で絵も描いてたし、声優の経験もあったので、いろんな要素が掛け合わさって「やってみるか」となりました。もちろんハードルがなかったわけではないんですけど。
── 意図せず同接300人はすごすぎませんか……?コミックエッセイの頃は、女性自衛官であることを隠していたそうですね。
シナモンさん
そうなんです。X(旧Twitter)のコミックエッセイって、男性が自分を美少女にして描いているパターンがよくあるじゃないですか。あえてそう思わせようとして、女性自衛官ネタは全部封印していました。あるきっかけで公表したら、やっぱり登録者が増えましたね。「分かりやすいな、お前ら」って思いました(笑)。
── 分かりやすい(笑)キャラクターデザインもご自身で描かれているんですよね。元自衛官としてのこだわりはありますか?
シナモンさん
制服やポーズにはどうしてもこだわりが出ちゃいますね。帽子をかぶっていないのに挙手の敬礼をするのは描きたくないとか。ただ、見ていただくと分かるんですけど、めちゃめちゃ着崩してるんですよ、私のキャラデザイン。他の自衛隊系VTuberさんと差をつけたくて、あえてそうしています。こないだリスナーさんに「なんで自衛官なのにインナーが黒なんですか?」って突っ込まれて、「うるせえ、そういうキャラデザだよ」って返したばかりです(笑)。
── リスナーさんには自衛隊に詳しい方が多いんですか?
シナモンさん
自衛隊に興味がある方や元自衛官の方は多いですね。びっくりしたのは、コメントはしてないけど実は見てる現役の幹部がいるということ。直属の上司だった方からDMが来て「シナモンさんお元気そうで何よりですね」って言われた時は震えました(笑)。しかも「僕も近くに引っ越してきましたよ」って、現在地までバレていて。
── それは怖いですね……!
シナモンさん
怖いっていうか、めっちゃ笑いました! 自衛官時代に関わった人たちのネットリテラシーをあまり信用していないので、平気で私の顔写真とか出してきそうな気がするし(笑)。でも、それはもう、自分のスタイル的にもしょうがないかなって覚悟はしています。私、自衛隊系の活動者の中では珍しく、当時の情報をかなり出しているので、知っている人がプロフィールを見れば「あいつじゃん」ってなるんですよね。ただ、個人情報漏らしたら金取るぞ!とは配信でもよく言ってますが(笑)。
── 個人情報も防衛しましょう(笑)
ラッパで始まる自衛隊の1日
── シナモンさんは陸上自衛隊で普通科隊員をされていたそうですが、自衛隊の朝はやっぱりラッパから始まるんですか?
シナモンさん
ラッパから始まる人が多いんですけど、実は女性自衛官に限って言うと、ラッパが鳴るよりも前に起きるんですよ。6時ちょうどにラッパが鳴るんですが、女性自衛官は女性専用の隊舎に住んでいるので、男性自衛官の隊舎で行われる朝の整列点呼に間に合わせるために、大体5時半くらいにはもう起きています。化粧する人もいますし、移動に5~10分かかるので。
── 男性隊員もラッパが鳴る前に起きてるんですか?
シナモンさん
それは基本的にNGですね。自衛隊って指示された時間どおりに動かなきゃいけないので、自主的に勝手なことをしちゃいけない部分があるんです。私が所属していた駐屯地では、女性隊員は点呼場所への移動に時間がかかるから、特例として早く起きてもいいよということになっています。
── 早起きは推奨されているイメージでした……! 起床後の流れを教えてください。
シナモンさん
点呼が終わったら6時15分くらいに食堂が開いて朝ごはんを食べます。みんなすごく早く食べるので、遅くても10分くらいで食べ終わりますね。そのあと隊舎に戻って、二度寝する人が多いんですけど、私はコーヒーが好きなのでその時間にコーヒーを淹れて、一人で飲んでいました。
── 想像よりもだいぶ優雅な朝なんですね。
シナモンさん
優雅ですかね?(笑)その後、7時半くらいから朝礼の準備が始まって、8時に朝礼があります。そして8時15分から国旗掲揚(けいよう)があるんです。ラッパとともに日の丸が上がっていく儀式で、自衛官は国旗に正対(正面を向くこと)して敬礼をします。国旗が上がり切ったら課業開始です。
── イメージに近いかも。敬礼にはかなり厳格なルールがあるそうですね。
シナモンさん
腕の角度、帽子のひさしと手の位置、指の伸ばし方まで、全部細かく教範で決まっているんです。よくドラマや映画の自衛隊のシーンで、帽子をかぶっていないのに挙手の敬礼をするシーンがあるんですけど、もうムズムズしますね。役者さんの顔を見せなきゃいけないのは分かるんですけど(笑)。
毎日射撃訓練してるわけじゃない?自衛官の午前
── 国旗掲揚が終わったあとは、どんなお仕事をするんですか?
シナモンさん
演習や射撃訓練がある日はもっと早くから動いていて、そもそも駐屯地にいないこともあるんですけど、訓練のない日は物品の整備をすることが多いですね。演習で使った円匙(えんぴ、シャベルのこと)を洗って油を塗ったり、ODシート(山間地や緑地帯に馴染むオリーブドラブカラーのシート)を干して畳んだり、車の洗車をしたり。全部税金で買っているものなので大切に扱います。官品であれば、ネジ1本でも見当たらなければ絶対に見つけなきゃいけないんですよ。
── ずっと走り込んだり匍匐(ほふく)前進したり……というイメージとはだいぶ違いますね。
シナモンさん
それは完全に新隊員教育のイメージですね(笑)。自衛隊にはパンを配る仕事もあれば、ストーブにひたすら燃料をくべる仕事もあります。災害派遣でご飯を作る自衛隊の姿を見たことがありませんか? あれも、どんな状況でも食事を作り提供できるよう、日頃から野外炊飯などで訓練しているから可能なことなんです。「自己完結型組織」なので、なんでもできるようにしておくという指針が根底にあって、さまざまな仕事が課業にも組み込まれています。
── すべてが訓練なんですね。その後はお昼ごはんですか?
シナモンさん
12時に食堂が開くので、11時50分くらいに集まって食べに行きます。早食いの癖がついているので、蕎麦(そば)とかは5分で食べちゃいますね。今でも在宅で仕事していて、オートミールを5分で流し込んでいます(笑)。
── 今はもう、ゆっくり食べてください(笑)駐屯地のご飯は美味しいんですか?
シナモンさん
駐屯地によるみたいなんですけど、私がいた駐屯地はめちゃめちゃ美味しかったです。特にカレーは最高でしたね。たまに駐屯地のイベントでカレーを配っていることもあるので、ぜひ自衛隊のイベントがあったら行ってみてください。
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