【インタビュー】「世界一かわいい」を追求するVTuber素材のトップランナー「うさねこメモリー」酒井聖さんが語るニッチ戦略

VTuber向けに2万点以上の高品質な素材を提供する「うさねこメモリー」。その生みの親であり、裏方としてVTuber文化を支えてきたのが、Memorynator株式会社代表の酒井 聖さんです。
今回は酒井さんに、事業立ち上げの裏側から素材に込めたこだわり、VTuber業界のこれからについて、お話を伺いました。

プロフィール

酒井さんアイコン
酒井 聖(さかい きよし)
Memorynator株式会社の代表取締役社長。VTuber向けに、衣装や配信背景など2万点以上の高品質な素材を提供するサービス「うさねこメモリー」を運営する。登録者数100万人を超える人気VTuberのオリジナルイラスト素材を制作するなど、クリエイターとしても多くの実績を持つ。

うさねこメモリーがVTuber向け素材に特化した理由

── 酒井さんのキャリアのスタートから、起業に至るまでの経緯を教えてください。

大学を卒業後、IT企業でWebマーケターとして勤務し、24歳で独立してWeb制作会社を立ち上げました。そこから4年くらいは、Web制作やWebマーケティング事業が中心で、VTuberとはまったく関係のない仕事をしていました。
「うさねこメモリー」って、もともとYouTubeチャンネルの名前だったんですよ。

Memorynator株式会社 代表取締役 酒井 聖さん

── えっ、どういうことですか?

当時、動物のキャラクターが登場するYouTubeのアニメチャンネルをよく観ていて、スタッフと「こういうの、自分たちでも作ってみたいよね」と盛り上がったんです。
そこで、うさぎとねこをモチーフにしたキャラクターと当社の公式キャラクターであるメモリーちゃんが登場するアニメチャンネルを趣味の延長で始めたのが「うさねこメモリー」でした。

当時のうさねこメモリー

── それが一体、どのようにしてVTuberの関連事業につながっていったのでしょうか?

チャンネルを始めたのは2020年ですが、まったく登録者数が伸びなかったんですよ(笑)。視聴者を集めるために、X(旧Twitter)やInstagramからYouTubeチャンネルに誘導する施策をあれこれ試しては失敗して。
そんなときに、たまたまXでVTuberという存在を知ったんです。メンバー間で「VTuber向けの素材を作ってSNSでバズれば、結果的にYouTubeチャンネルにも来てもらえるんじゃないか?」という話をして、シンプルな素材を無料配布しました。すると、想像以上の反響があって、VTuber向けの素材を展開していくことになりました。

── そこから、わずか4〜5年で「VTuber向け素材といえば、うさねこメモリー」と認知されるまでに成長したんですね。

あのころは、素材屋がほとんどいなかったんですよ。やっぱり、みんな背景よりもメインキャラクターを描きたいから。だからこそニーズはあるし、競争優位性を考えたときに勝負できるのは素材だと考えました。

── 素材屋として、広く認知されるようになったきっかけは、何だったんですか?

大きなきっかけは、マイクです。VTuberさんが机の上に置く卓上マイクって、ごく普通のダイナミックマイクとかコンデンサーマイクしかなかったんですよ。
そこで、思いっきりかわいいデコレーションをしたマイク素材のプレゼントキャンペーンをしたところ、ホロライブの雪花ラミィさんの目に留まって、オリジナルマイクの制作を依頼していただいたんです。

そこから反響が一気に広がって、多いときには月に100件近く、以下のようなご依頼がありました。

── 錚々たる顔ぶれですね!突然、100件も依頼がきて大丈夫でしたか?

やっべー!って感じでした(笑)。イラストレーターが1〜2名しかいなかったので、急いで人を増やしました。

── 100件に対応できる人手をすぐに集めるのも大変ですよね。

実は、いわゆる二次元コンテンツ系のイラストを描く仕事って、あまり多くなくて。当社がある福井県では、他になかったはずです。だから、キャラクターを描きたい気持ちはあるけど、それ以上に絵を仕事にしたいというメンバーがすぐに集まってくれて助かりました。絵と関係のない仕事をしながら創作を続けるより、実務として絵を描いて経験を積める環境に魅力を感じてくれたんだと思います。

── なるほど、採用面でも優位性があったんですね。

そうですね。イラストレーターって基本的にはフリーランスが多いので、プロジェクト単位でアサインされて、終わったら解散という流れが一般的です。
就職するなら大手のゲーム会社や出版社が理想的でしょうが、賞を獲っているとか、有名なラノベの表紙を描いているとか、学校の先生の推薦があるとか…そういった経歴がないと難しい。その最初のチャンスを掴むこと自体、簡単ではない人が多かったのではないかと思います。

チームだからできる「世界一かわいい」へのこだわり

── 先ほど、競争優位性のお話が出ましたが、デジタルコンテンツ販売のプラットフォームも登場して、今は素材屋さんが増えましたよね。

めちゃくちゃ増えましたね。

── そのような状況でも「うさねこメモリー」が選ばれているのは、先行者だったことに加えて、何が理由だと考えますか?

素材屋って、おそらく8〜9割は個人の方だと思うんです。うちは企業としてやっていて、チームで意見交換ができる、そこが強みです。
そして、アイデアはとにかく数を出します。2D系の素材だけで週に10~20、他にも3Dアセットやショート動画素材等を加えると週20~30。それを毎週の定例ミーティングで、ディレクターや企画の責任者と一緒に精査して、承認・非承認を判断していく体制があります。30件出しても通るのは4件ほどです。

── 厳しい精査でクオリティ管理を徹底しているんですね。承認・非承認には、「うさねこメモリーらしさ」のような判断基準があるのでしょうか?

あります。大前提として、「世界一かわいい」「世界一ユニーク」「まだ世の中にない」のいずれかを満たしている必要があります。すべて満たしているのが理想ですが、どれかに振り切ることもあります。
また、「うさねこメモリーがやるべきことか」という視点も大切にしています。たとえば、配信枠はグラフィックデザインの領域だと考えているので、うちではあまりやりません。ただし、キャラクターを前提としたデザインの配信枠については、イラストがないと成り立たないのでやる判断をします。
さらに、動くサイリウムや3D、Live2Dと連動するイラストなど、グラフィックデザイナーさんが作れないものは、僕らが手がける領域だと思っています。

── 「かわいい」や「ユニーク」って、人によって感覚が違いますよね。あまりピンとこないものをイラストレーターさんから「これはかわいいです!」って推されることもあるのでしょうか?

ありますね。頭にのせる海の生き物は、「すごくかわいいから、できればすぐに出したい」と言われました。正直、「これはかわいいのか?サメをのせるシーンとは…?」とも思いましたが、その熱意を汲んで承認しました。

── 確かに、シュールなかわいさがあります(笑)。
VTuber市場が急拡大して、似たような世界観や演出の配信者が増えているなかで、こういった素材は差別化の要素にもなると感じるのですが、そのあたりはどうですか? 

VTuber登龍門(※)でもよく話題になりますが、VTuberの数が増えると、トーク力や企画力だけでは差別化しづらくなってくるんですよね。そのぶん、世界観や見せ方の工夫がより重要になってきていて、VTuberのジャンルも細分化が進んでいると感じます。 素材に関しても、たとえばこの「韓国料理セット」のような、ニッチなテーマや世界観に対応できるものを展開していきたいと考えています。

(※)酒井さんが審査員を務めるVTuberのオーディション番組

韓国料理セット

── トッポギを食べるVTuber、なかなか見れない光景ですね。この素材はどれくらいの需要がありましたか?

販売サイトの「いいね」の数が59なので、売れていても5〜6個だと思います。この超ニッチな需要にどこまで合わせていけるかですよね。

── 採算が取れなくても作るんですか?

はい。「うさねこメモリーならワンチャンあるかも」って思ってほしいんですよ。

── 「いらすとや」みたいな感じですか?

まさにそうです。ニッチな素材が必要になったときに「うさねこメモリーにあった」となれば、次からも来てもらえますよね。最終的に、ヴィレッジヴァンガードみたいに「何かおもしろいものがあるかも」で、立ち寄ってもらえるのが理想です。

── ニッチな素材の数を増やして、まず見に来てもらう導線を増やしているんですね。ということは、「かわいい」を軸にして「かっこいい」や「渋い」といった方向に展開する可能性も?

それはないです。ゲーム会社に近い考え方をしていると思うのですが、ファイナルファンタジーが急にドラゴンクエストみたいになったら違和感があるじゃないですか。超イケメンが剣や魔法を使って戦う、そのかっこよさがファイナルファンタジーというブランドの軸になっています。ドラクエにもまた別の良さがあって、かっこよさを押し出すタイプではないですよね。
うちも同じで、中途半端に他のテイストを混ぜると、ブランドの価値が薄れてしまうので、「かわいい」に全振りしています。

── それこそが「うさねこメモリーらしさ」なんですね。

VTuberはキャラクター制作の後が本題

── 最近は、企業や自治体によるVTuberの活用もかなり増えていますね。

そうですね。当社でも、さまざまなプロジェクトに携わらせていただいています。

── 今後もVTuberを起用したプロモーションは増えていくと思いますが、うさねこメモリーはそうした流れのなかでどういった立ち位置を目指しているのでしょうか?

流れを牽引していきたいという気持ちは、もちろんあります。ただ、あくまでも主役はVTuberさんなので、僕たちはどうすればおもしろくなるか、どんな内容なら参加しやすいか、どんな素材があれば楽しんでもらえるかといった部分を考えるのが役割だと思っています。背景絵師業界にいて、裏方としてVTuberを支えてきたからこそ、そう思うのかもしれません。

VTuberはキャラクターを制作したらゴールではなくて、どんな活動や配信をするのか、どんなふうにファンと関わるのかといった、その後の運用が本題です。そこが見落とされがちで、「とりあえずキャラを作れば流行るよね?」という誤った認識とのズレを埋めることも、僕たちの役割だと思っています。

── そのあたりまで含めて、うさねこメモリーにお任せすれば安心ということですね。

はい、ぜひ任せていただきたいです。

── マーケティングや企画の視点でも伴走してくれるのは、VTuber活用に悩む自治体や企業にとって、頼もしい存在ですよね。こういった、酒井さんの核心を突く感覚や企画力は、どのようにして培われたのでしょうか?

ありがとうございます。企画力という点では、Webマーケティング出身であることが大きいかもしれません。Webマーケティングでは、何がどれだけ良かったのか、どこに課題があるのかといった点を、数値をもとに分析するのが基本です。
今の時代、単純にプロダクトを作れば売れるなんてことはないですよね。何のために作って、どんな人が買って、買った後にどんな行動を期待するのか。そうした一連の流れを考えるのが、マーケティング的な思考です。その視点の応用が企画力に出ているんじゃないかなと思います。

3Dライブの常識を変える「うさねこ式V Live Stage」

── 最近は、3Dライブ向けの「うさねこ式 V Live Stage」というステージ素材も提供されていますが、イベントの相談も増えていますか?

そうですね。すでに何件かイベント会社さんからお問い合わせが来ています。本来、3Dライブのステージを一から用意しようとすると、とんでもない費用がかかるんですが、このアセットを使えばコストがぐっと抑えられます。

そうすれば、イベント自体が増えてVTuberさんの活躍する場が広がるし、イベント会社さんも浮いた予算を別のところに使えます。僕たちもステージ素材が売れてうれしい、三方にとってメリットのあるトリプルウィンにできると思っています。

── 3D素材も、今後さらに展開していく予定ですか?

3Dにはかなり力を入れていきたいと思っています。Live2Dは手軽に使える、コストが比較的抑えられるといったメリットがありますが、3Dじゃないとできない表現もあります。今後はそうした表現がより当たり前になっていく時代が来ると考えていますし、業界全体も、にじさんじさんやホロライブさんを見ていると少しずつ3Dにシフトしているように感じます。
しかし、3Dは環境やキャラクターの制作にコストがかかるので、そこを僕たちが補いたいんですよ。
本当に大事な場面は、完全オリジナルで作るのがベストです。ただ、すべてをオリジナルにするのはコスト面や時間的制約で難しいこともあるので、「今回はうさねこでいいんじゃない?」と、イベント会社さんの企画ミーティングで話してもらえる存在になれたらうれしいですね(笑)。

── ちなみに、完全オリジナルのステージを制作してもらうことは可能ですか?

可能です。実際にそういったご依頼やご相談もいただいています。ただし、やはり通常のステージ素材と比べると、桁違いのコストがかかりますね。

レッドオーシャンと言われても諦める必要はない

── 今後、うさねこさんとして目指していきたいビジョンがあれば教えてください。

抽象的になりますが、「ジャパニーズかわいい(KAWAII)」を3Dの業界でも広げていきたいです。たとえば、3Dモデル素材のうさぎを検索しても、出てくるのはリアルだったり硬い印象のものが多いんです。うちが、かわいいうさぎを出すことで「かわいいといえば、うさねこだよね」と世界中から言われる存在になりたいです。ハッシュタグの「#JPKAWAIIUSANEKO」も流行らせたいですね!

海外ユーザー向け3Dモデル素材

── ハッシュタグが広まる未来、楽しみです。
VTuber市場の最前線にいる酒井さんが「こうなっていくともっとおもしろい」と感じている未来像についても、ぜひ伺いたいです。

まず僕は、VTuberが増えていること自体がとても良いことだと思っています。昔から「人は見た目じゃない」って言われますけど、現実はそんなことなくて、見た目に左右される場面も多いですよね。
だからこそ、VTuberはその見た目を性別や年齢にとらわれずに自分で選べて、みんながそれを個性として楽しんでいるのがとてもおもしろいです。メタバースもそうですが、見た目に囚われずに企画力やトーク力、リアクション、演出など、さまざまな力で勝負できる文化が生まれていることは良い流れだと感じています。

それで、VTuber業界がどう進化していくかという話に絞ると、僕はもっとニッチ化していくんじゃないかと思っています。すでに、宇宙ロケット専門のVTuberさんがいたり水族館に特化した方がいたりしますし、そういうポジションはまだまだ余っていると思うんですよ。今後も、専門性のある個性的なVTuberがどんどん増えていくと思います。
お笑い芸人系のVTuberさんって、あまり見かけないですけど、出てきても全然おかしくないですよね。吉本興業みたいなVTuber事務所があってもいいと思うし、足が不自由でコントに出るのが難しかった方も、コントができるじゃないですか。バーチャル空間だからこそできる表現って、やっぱりあると思うんですよね。
そういう部分に、企業のサポートとか、多様性を認めるカルチャーがうまく噛み合ってくると、また一段、進化していくんじゃないかと感じています。

── VTuberはレッドオーシャンだとか個人勢は厳しいといった声もありますが、まだまだ市場は拡大するということですね。最後に、配信を始めたばかりの方やこれから始めようとしている方に、メッセージをください。

まず、レッドオーシャンだと言われますが、僕はそう思いませんし、仮にそうだとしてもやり方次第です。諦める必要は絶対にないです。大切なのは、先人への憧れだけで終わらせずに、ロールモデルの良さを踏襲しつつも、自分だけのオリジナリティを追求することです。
毎年、新たに注目を集める個人勢や企業勢のVTuberが出てきていますよね。本当にレッドオーシャンなら、そんなことは起きないです。
ストリーマー業界は、まだまだ個人にもチャンスがある世界なので、これから始める方も、すでに配信している方も、「自分にしかできないことは何か?」を見つめ直して、挑戦を続けてほしいと思います。

── お話を伺っていて思ったのですが、酒井さんが持つクリエイターとしての視点とマーケティングの視点って、VTuberにも通じるものがありますよね。

めちゃくちゃ似ていると思いますよ。クリエイティブって、その中にいろんな手段があるだけで、僕たちはイラストや素材という手段で表現していて、VTuberさんは配信という手段で表現しているだけで、同じクリエイターだと思います。提供している価値が違うだけです。
僕たちは使ってもらうために、かわいいとか盛り上がるといったところに価値を置いていますし、VTuberさんも同じくファンになってもらうために、どうやって楽しんでもらうかとか、ユニークな時間を過ごしてもらうかっていう視点で活動している。結局、作っているものが違うだけで、広い意味ではみんなクリエイターだと思います。

── VTuberも「うさねこメモリーらしさ」のような強い軸を持つことができる方が、成功に近づけるのかもしれませんね。
VTuberの方はもちろん、企業や経営に携わる方にも参考になるお話を、ありがとうございました!

インタビュー:坂本 祐介
文:山口 美里

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この記事を書いた人

               

ストマガ編集部

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