【インタビュー】祝10周年!ヤマハのAGシリーズが配信者に選ばれ続ける理由とは?

配信者にとって、音質はもちろん配信機材の操作性も欠かせない要素のひとつです。

ヤマハのオーディオインターフェース「AGシリーズ」は、その両方を兼ね備えた配信機材の定番として、2015年の発売以来多くの人に選ばれてきました。

AGシリーズが長年にわたって支持されてきた背景には、どのような考え方や工夫があったのでしょうか?

第一世代モデルの発売から10周年を迎えた今、あらためてシリーズの歩みを振り返るべく、AGとZGの両シリーズをそれぞれ担当したお二人にお話を伺いました。

AGシリーズとは?

AGシリーズは、ライブ配信や音楽制作に必要な機能をコンパクトな筐体に収めた、配信者向けのオーディオインターフェースです。2015年に第一世代モデルが発売されて以降、個人配信の現場で広く使われてきました。マイクや楽器の入力に加え、ループバック機能やDSPエフェクトを備えた設計と直感的に操作できるユーザーインターフェースは、多くの初心者にとって「最初の一台」として親しまれています。

お話を伺ったお二人

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白井 瑞之さん
ヤマハ株式会社
クリエイター&コンシューマーオーディオ事業部
グローバルマーケティング&セールス部
コンテンツシェアリング&コミュニケーショングループ 主幹
2015年に発売されたAGシリーズ、AG MK2シリーズの商品企画を担当。
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金田 匡史さん
ヤマハ株式会社
クリエイター&コンシューマーオーディオ事業部
グローバルマーケティング&セールス部
コンテンツシェアリング&コミュニケーショングループ 主任
2022年に発売されたゲーム配信向けモデルZGシリーズの商品企画を担当。

AGシリーズ誕生のきっかけは配信者の存在

── まずは、AGシリーズ10周年おめでとうございます!

白井さん 金田さん
お二人
ありがとうございます。ユーザーのみなさまのおかげです。

── 配信者向けのオーディオインターフェースとして、AGシリーズはすっかり定番のポジションを確立していますよね。その立ち上げの経緯からお聞かせいただけますか。

User 1
白井さん
構想は2013年、ちょうど世の中でライブ配信が広がり始めたころですね。我々の開発チームでは小型ミキサーの後継機を検討していて、「そもそも小型ミキサーって誰が使っているんだろう?」という話になったんです。そこで出てきたのが、どうも最近は配信者が使っているらしいという話題でした。
ただ、その時点では社内にもあまり情報がなく、実際に配信プラットフォームの方々に話を聞きに行ったんです。「ライブ配信って何ですか?」というレベルからのスタートでしたが、話を聞くなかでヤマハとしても何かソリューションが提供できるんじゃないかという手応えがあり、現場の若手主導で動き出したのがAGシリーズの出発点です。当社はミキサーとオーディオインターフェースの両方を手がけているので、それを組み合わせれば、新しい形を提案できるのではと考えました。

── そのときに想定していた配信者というのは、YouTuberですか?

User 1
白井さん
ニコニコ生放送、いわゆる生主の人たちですね。当時は、オーディオインターフェースとWindows OSのステレオミキサー機能をなんとか組み合わせて使っていて、かなり苦労されていたんです。
それなら、そういったパソコンでライブ配信をする人たちに向けて、ちゃんとしたソリューションを出そうと考えました。

── なるほど。そのころ同じような製品って他社からは出てたんですか?

User 1
白井さん
ライブ配信用に使われていたオーディオインターフェースはいくつかありました。ただ、調べてみると足りない機能も多かったので、全部をカバーした製品を出そうと。我々が一番乗りではなかったとは思いますが、「決定版」と言えるものを出したい思いがありました。

── 社内の反応はどうでしたか?

User 1
白井さん
若手は前向きだったんですが、一方で「何それ?」という反応もありました。普段は東京ドームなど大規模な会場で使われるライブ用ミキサーを手がけてきたので、こう言った配信用のもの、というとピンと来てない人も多かったですね。

── となると、企画を通すのも簡単ではなかったですか?

User 1
白井さん
そうですね。それまでは、コンシューマー向け製品についてユーザーの声を直接聞く機会がなく、開発途中のアイデアを社外に出すことも前例がありませんでした。そこで、まずはユーザーヒアリングから始めることにしました。
それを社内に持って帰って、世の中にはこういうことで困っている人たちがいます、そういうお客さまの声をもとに企画を立てたので、一度やらせてくださいと提案して、とりあえずやらせてもらえることになったというのが実際のところです。

── 開発にあたっては、生主の方にもヒアリングされたのでしょうか?

User 1
白井さん
直接の接点はなかったので、会議室のスクリーンにニコニコ生放送を映して、配信をみんなで視聴しながらコメントを打って情報収集をしていました。「どんなセットアップをしてるんですか?」とか「どんな機材を使ってるんですか?」みたいな感じで。

── 生主の方は、ヤマハの開発チームとは知らずに答えていたんですね!話を聞く中で、どのようなニーズが見えてきたのでしょうか?

User 1
白井さん
それまで、我々が製品を提供してきたのは音響知識があるユーザー層でした。しかし、配信者の方々は必ずしもそうではありません。当初は「MGシリーズ 」のようにツマミがたくさん並んだ構成を想定していたのですが、「ツマミがたくさんあるだけで吐き気がする」とか「全部を触らなきゃいけない強迫観念に駆られる」といった声が返ってきました。これは根本的に設計思想を変える必要があると感じましたね。

── それが、AGシリーズの直感的な操作性へとつながっているんですね。

User 1
白井さん
そうです。ツマミは音量やエフェクトなど、必要最小限に絞り込みました。その代わりに、操作の直感性を重視してフェーダーを搭載しています。これは、放送局で使われているカフボックスを参考にしました。「電車でGO!」のハンドルみたいにする案も出たのですが(笑)、さすがに大きすぎるということで断念しました。
それから、直感的なわかりやすさを重視して、操作パネルにアイコンを入れたのもAGシリーズが初めてだったと思います。
User 1
白井さん
音質面も、内部にDSP(デジタル信号処理)を搭載することで、音響知識がなくても一定の音質クオリティが実現できるように、ボタン一つで音質調整ができるようになっているのも特徴です。

── 直感的な操作性だけでなく、音質についても抜かりなく設計されているんですね。開発で苦労したことはありますか?

User 1
白井さん
やはり、USBのバスパワーで動かす必要があった点ですね。USBから供給できる電力が最大2.5Wと限られていたので、その枠内に収めるのが大変でした。ハード設計の担当者が「この回路を削ればいけるか?」と何度も調整して、基板が配線だらけになって泣きそうになりながら作業していたのを覚えています。
普通に作るとまったく足りないので、3つの予定だったLEDを2つにするとか、マイクに送るファンタム電源に必要な電流を抑えるなど、細かい調整を重ねました。

── そこまで細かく調整されていたとは驚きです。

User 1
白井さん
ほかにも、途中でAG03-MIKU(初音ミクコラボモデル)を追加することになったんですが、キャラクターの鼻である小さな点を工場の印刷工程できちんと残すのがすごく難しくて。メカ設計の担当者が画面いっぱいに初音ミクの顔を拡大して、どのように印刷をすれば鼻が消えずに印刷され量産できるかを検討していました。そういった想定外の対応も重なって、開発には手間も時間もかかりましたね。
AG03-MIKU
User 1
白井さん
開発の終盤、試作品をお客さまに見てもらったら、モニター音声をミュートできるスイッチが欲しいとのご要望をいただいて「今から!?」みたいなこともありました(笑)。そこからまた侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論になったことも印象に残っています。

── 音響に詳しくない方をターゲットにされているということは、価格設定にも影響しますよね。

User 1
白井さん
おっしゃる通りです。

── 初心者でも買いやすい価格にするために、機能やパーツの取捨選択で苦労されたことはありますか?

User 1
白井さん
やっぱり、安く作るのって難しいんですよ。機能にしろパーツにしろ、構想段階が一番楽しくて、夢物語がどんどん広がるんです。こんなこともできる、あれもやりたいと盛り上がるんですが、そのままコストを試算すると大体オーバーしていて……そこからコストダウンの修行が始まります。機能を丸ごと削る判断をすることもありますし、パーツのコストダウンは日常茶飯事です。AGシリーズは、MGシリーズのパーツを流用することで、新しいパーツを極限まで減らしています。
User 1
金田さん
逆に言えば、それだけ工夫を重ねてでも妥協しなかった部分がたくさんある、ということです。MGシリーズの品質をそのままAGシリーズに持ってきたり。
User 1
白井さん
プロ向けの音響機器のクオリティをそのまま持ってきていますね。やっぱり、音質は捨てられない最後の砦です。

── 多くのご苦労の末、2015年に第一世代モデルが販売されましたが、これはいける!といった手応えはありましたか?

User 1
白井さん
当時の他社製品に比べて、ソリューションとしてはかなり整っていたので、どうだ!という気持ちで出しました。ただ、このカテゴリー自体がまだ一般的には知られていなかったので、最初の反応は厳しかったですね。配信に慣れている人にはすぐ伝わったのですが、それ以外の方にはなかなか理解されず、浸透するまでには少し時間がかかりました。
AG03

── 手応えを感じられるようになったのは、いつごろでしょうか?

User 1
白井さん
販売から約2年後です。スマートフォンの性能が向上して、スマホでライブ配信をするプラットフォームが普及し始めたんです。スマホ単体では音質に限界があるけど、AGシリーズを使うことで明確な違いを実感するユーザーが増えて、そこから一気に広まりました。

変わる配信スタイルに、変わらず応える設計思想

── AGシリーズの10年間の進化についても伺いたいのですが、第二世代モデルのMK2ではどのような点が進化したのでしょうか?

User 1
白井さん
マイクのミュートスイッチの搭載やUSB Type-Cへの対応、黒モデルの追加といった点が主な変更点です。とはいえ、第一世代モデルで好評だった操作性は大きく変えない方が良いと考え、全体の設計はあえて初代を踏襲しました。その上で、内部的な音質強化に注力しました。当時チーム内ではインナーマッスル強化と呼んでいました。
第一世代モデルではUSBバスパワーの制約で供給電力が2.5Wまでだったのに対し、MK2では4.5Wまで使えるようになりました。これにより、見た目の操作感はそのままに、内側ではしっかりと音質面のブラッシュアップを行っています。
AG03MK2

── 発売時には、配信業界にもさまざまな変化があったと思います。市場の盛り上がりや配信スタイルの多様化などもあったなかで、AGシリーズとしてのコンセプトに変化はありましたか?

User 1
白井さん
ライブ配信のプラットフォームは、ニコニコ生放送のようなパソコンベースのものから、スマートフォンを使ったものへと広がっていきました。ただ、AGシリーズの根本にある「誰でも使える」というコンセプトは変える必要がないと考えていたので、基本的な方向性に大きな変更は加えていません。

── この10年間でユーザーの要望は変わってきましたか?

User 1
白井さん
かなり変わってきたと思います。最初はBGMを入れることってそこまで重視されていなかったんですが、いまでは当たり前になっていますし、「リバーブをかけたい」とか「ボイスチェンジャーを使いたい」といった演出面の要望も増えてきました。むしろ、AGシリーズがきっかけでリバーブが標準になった面もあるかもしれません。やりたいことがどんどん増えている印象です。 
機能面だけでなく、音の扱い方自体もかなり複雑になってきています。以前は、音がミキサーに入ってミキサーから出ていくというシンプルな流れだったのですが、今はマイクの自分の声に加えてパソコン内のゲームの音、ボイスチャットの音声など、ハードウェアの音とソフトウェアの音が混在しています。
さらに、それらが配信に乗せる音、通話相手に届ける音、自分がモニターする音といったように、出ていく先も複数に分かれていて、ルーティングが非常に複雑化しているのが現状です。
User 1
金田さん
ボイスチャットを活用したオンラインでのやり取りというのは、以前にはなかったニーズだと思います。従来のAG06では、同じ現場に2人いて、オフラインで通話しながら配信するような使い方が想定されていましたが、今はオンラインでのコラボ配信のようなケースが増えています。

── そうですよね。 社内でも、最近は配信ネイティブなメンバーも増えてきましたか?

User 1
白井さん
金田さんもそうだし、配信を自分でもやっているメンバーは増えています。
User 1
金田さん
そうですね(笑)

── 製品だけでなく、配信文化そのものを後押ししたいという想いは?

User 1
白井さん
ありますね。ヤマハは「文化創造企業」をうたっており、単に物を作って売るだけでなく、配信文化そのものを支えていくという視点も大事にしています。

── 配信のスタイルはどんどん多様化していますが、そうした文化の広がりについて、社内ではどのように捉えていらっしゃいますか?

User 1
白井さん
音楽系の配信者を軸にしながらも、そこを起点にゲーマーの方やVTuberの方などへと広がっていく、社内ではそれを「染み出す」と表現しています。音楽に特化しているわけではなく、最近はこういう人がいるよね、ああいう人もいるよね、とさまざまな動きに注目しています。

ゲーム配信に特化したZGシリーズ

── それで言うと、AGシリーズがゲーマーに染み出した結果、ゲーム配信向けの「ZGシリーズ」が誕生しましたよね。

User 1
金田さん
ゲーマーが扱いやすく、パソコン一台で完結できるように設計したのがZGシリーズです。もともと、AGシリーズをゲーム実況やボイスチャット専用で使っているユーザーさんが多かったんですよね。とくに最近は、ゲーム内でもコミュニケーションがより重要になっていて、そのニーズにしっかり応えたいと考えました。
配信とボイスチャット、そしてゲームに必要な端子だけを備えて、入出力もシンプルに整理しています。
ZG02

── VTuberや生主のように声が主役となる配信では音質が重要ですが、ゲーム配信ではその点、どう意識されましたか?

User 1
金田さん
ゲーム音については、実際にゲーム開発者の方々にもヒアリングを行いました。サウンドエンジニアさんの意図通りに再生してほしいという声が多くて、原音の再現性を重視する方向で設計しています。

── ゲーム音と同時にコミュニケーションの音も聞こえないといけないわけですが、そのあたりのバランスは、ユーザー側で調整できるんですか?

User 1
金田さん
バーチャルサラウンドによって頭外定位を実現し、ゲーム音とボイスチャットを同時に聞き取りやすくする機能を入れています。オン/オフはユーザーが自由に選べる仕様です。
また、AGシリーズでは難しかった音量バランスの個別調整もZGシリーズでは可能です。

── 完全に、ゲーマーのニーズを捉えた設計になっているんですね。

User 1
金田さん
私自身がAGユーザーだったので、自分の体験をもとに考えました。

── 本当に自分が欲しいものを突き詰めた結果なんですね。
ZGシリーズ以外にも、ターゲットを細分化したモデルが出る可能性はありますか?

User 1
白井さん
ゼロではないですが、製品のコアの部分が変わるかどうかですね。
製品の仕様をターゲットに向けて最適化したことでゲーム配信ができない、あるいは歌配信ができない、というレベルであれば、モデルを分けていく可能性はあると思います。
そうでない限りは、一台でいろいろな用途をカバーできるような方向で考えていきたいです。

自分に合った一台を選ぶには?AGシリーズの選び方

── これから配信を始める方は、AG03とAG06で迷うことも多いと思います。それぞれどんな人におすすめですか?

User 1
白井さん
ASMR配信をやりたい方や、臨場感のある弾き語り配信を考えている方には、ステレオ録音が可能なAG06がおすすめです。AG03でも弾き語りはできますが、操作性や入力の柔軟さではAG06のほうが適しています。
AG03にはフェーダーが付いていて、直感的な操作がしやすいという点で好まれることもあります。
User 1
金田さん
音質そのものは、AG03もAG06も同じグレードなんですよ。1人で配信するだけならAG03で十分ですが、2人でトークをしたい場合や自宅にゲストを呼んで配信したいときは、マイク入力が2つあるAG06の方が柔軟に対応できます。
User 1
白井さん
ポッドキャストとかね。
User 1
金田さん
そうですね。ルーティングが複雑になる可能性がある方にもAG06がおすすめです。
User 1
白井さん
歌配信をする方で、歌用と喋り用でマイクを分けたい場合、AG03だと毎回設定を変更する必要がありますが、AG06ならそれぞれを別のチャンネルに挿して、マイクの切り替えだけで対応できるんですよ。

── なるほど。こだわり方や配信スタイルによって選び方も変わってきそうですね。

マイク一体型モデルのAG01についても教えてください。これは、これまでとはまったく違う思想のモデルですよね。

User 1
白井さん
そうですね。AG01は、完全にエントリー層の方に向けて設計しています。配信を始めたばかりの方って、リスナーさんにすすめられてAG03を買ってみたはいいものの、マイクってどうするの?という段階からスタートすることも多くて。どこのマイクがいいとか、ファンタム電源がどうとか、わからないじゃないですか。

── わからないですよね。

User 1
白井さん
それなら、最初からマイクまで一体型にして、挿せばすぐ使える状態にした方がいいんじゃないか、というのがこのAG01の発想です。全部入りで、パッと始められるようにしています。
AG01

── なるほど。AG03もエントリー向けモデルではありますけど、それよりさらに手前の「はじめの一歩」をカバーしているという位置づけなんですね。

User 1
白井さん
はい。雑談配信中心であれば、AG01だけで十分です。リバーブもかけられますし、スマホなどからBGMも再生できる。楽器も変換ケーブルを使えば配信することができます。AG03でできることは、実はほぼ全部この中に入ってます。

── そう聞くと、AG03と悩む人は多そうです。

User 1
白井さん
AG03はマイクを自由に選びたい人向けですね。より音にこだわっていきたいとか、将来的に拡張したいとか。逆にAG01は、とにかく始めてみたい、設定でつまずきたくないという人にとって、最もスムーズな選択肢だと思います。
User 1
金田さん
とにかくすぐ始めたい、マイクにこだわりもない、もうヤマハにまかせたい!っていう人は、AG01を信じて買ってください。

── ヤマハさんを信じれば間違いないですね!

では、2023年に登場したAG08は従来モデルに比べて、どんな点が強化されているのでしょうか?

User 1
白井さん
AG08は、より配信者に特化したモデルとして設計されています。特に配信者向けに特化したチャンネルが非常にリッチになっていて、いくつか大きな特徴があります。
一つ目は、ラグなしで使えるボイスチェンジャー機能が標準搭載されていること。二つ目は、リバーブに加えてディレイも独立して使えるため、より細かな音演出が可能です。また、それらを同時に使うこともできるのがポイントです。
三つ目は、プリセット機能が備わっている点です。しゃべる、歌う、変声といった用途ごとに最大4つの設定を記憶しておけるので、シーンに応じて瞬時に切り替えられます。
他には、ポン出し(効果音)機能が搭載されているので、ジャジャーン!のようなサウンドをワンタッチで再生することができます。
さらに、これは少し技術的な話になりますが、AG08はパソコンに接続すると3系統(例:AG08 3-4、AG08 5-6チャンネルなど)として認識されるため、BGM、ゲーム音、ボイスチャット音などを別々のアプリで個別に扱うことができるようになっています。
AG08

── ということは、ゲーム配信も雑談配信もして、途中でいきなり歌い出すようなスタイルの方にとっては、それぞれの設定をあらかじめ分けておけるので、その都度の微調整が不要になるということですね。

User 1
白井さん
そうです。パソコン側・配信ソフトウェア上でいちいち設定を変えるのではなく、すべてこの本体側で直感的に操作できるのがポイントです。配信に乗せる音を一瞬で切り替えられるので、配信中のトラブルも起こりにくくなっています。

── 操作性だけでなく、音の切り替えやトラブル防止の面でも、配信向けにかなり最適化されているんですね。となると、やはり気になるのはその音質なんですが。

User 1
白井さん
音質は、AGシリーズの中でもフラッグシップに位置づけられるレベルです。中身は業務用ミキサーと同じDSP(デジタル信号処理)を使っていて、特にリバーブなど空間系エフェクトの質感がより自然で滑らかです。アナログ部分にもこだわったため、ボーカルや楽器の音質そのものも明らかに良くなっています。

── 音質が一番いいと。ほかにもAG08ならではの特徴はありますか?

User 1
白井さん
ヘッドホン端子が2系統あるので、2人で配信するときにもそれぞれが自分のモニター音を聞けるんです。従来のモデルだと1つしかなかったので、これは大きな違いですね。
User 1
金田さん
最近はポッドキャストや複数人でのトーク配信も増えているので、そういった用途にも対応しやすくなっています。
User 1
白井さん
あとは音のバランス管理ですね。これまでのAGシリーズは、配信に出す音と自分のモニターで聞く音のバランスが同一だったんです。たとえば、自分の声が10でBGMが8なら、配信にも同じバランスで出てしまう。でもAG08は中身がデジタルミキサーになっていて、アプリを使えば配信用と自分用のバランスを分けて調整できます。

── その使い分けはどういったシーンで活きるのですか?

User 1
白井さん
たとえば、歌配信では自分の声をモニターしながら配信していると、知らないうちに声が大きくなってしまって、アーカイブを見返したときにこんなつもりじゃなかったと感じることがあるんです。
その点、AG08は、自分が聞く音と配信で届ける音のバランスを分けて調整できるので、そういったズレを防ぐことができます。
User 1
金田さん
プロのアーティストもステージ上のモニター音と会場に向かって出す音は違うんですよ。

── AG08があれば、プロライクな配信が一台で完結するわけですね。そういったニーズって高まってきていますか?

User 1
白井さん
そうですね。配信者にも段階があって、みんな少しずつ機材や構成をアップデートしていくんです。そのなかで、ポン出しやボイスチェンジャーなどを別々に組み合わせて使う人が増えてきて、さらに上を目指したいというニーズに応えるために、必要な機能を一台にまとめたのがAG08です。

── そう考えると、モデル選びはいきなり商品ページを見てスペック比較をするより、どんな配信がしたいかから逆算するといいですね。

User 1
白井さん
そうですね、そういう選び方をしてもらえたらと思っています。

個性はクリエイターに出してもらうもの

── 先ほど、「音質は捨てられない最後の砦」と伺いましたが、プロの視点から見て「音がいい」とはどのような状態を指すのでしょうか?配信で声を届けるだけなら、そこまで音質にこだわらなくてもいいのでは……と感じる方もいますよね。

User 1
白井さん
音が悪いと、なんかザラザラしてるとか、ジャリジャリしてるってみんな気づくんですよ。でも、自然に聞こえているときは、誰も音のことを気にしません。それこそが「音がいい」ってことなんじゃないかと思いますね。結果として、配信者さんの喋りたいことがちゃんと伝わる、その人の声が自然に届くという。

── 雑音に気を取られないことが、「音がいい」なんですね。

User 1
白井さん
そうです。リスナーが配信者に集中できる、それが音のよさです。スマホの内蔵マイクだけで配信している方って、すぐわかるんですよ。音に立体感がなくて、なんとなく平たいというか。そこにインターフェースやマイクを使えば、声に芯が出てきて、たとえイケボじゃなくても声が通って聞き取りやすくなる。その違いは大きいと思います。

── ユーザーの間では「ヤマハはキラキラした音」、他社メーカーは「温かみがある音」など、メーカーごとの音色についても語られることがありますが、こうした印象は意図的に設計されたものですか?

User 1
白井さん
基本的にヤマハでは、音を作り込むというよりも、原音に忠実であることを重視しています。コンサートなどで使用する業務用のミキサーと同様に、入力された音をそのまま出すというポリシーですね。特定のキャラクターを与えるというよりは、クリエイターが自分の音を作りやすいようにベースを整えるという考え方です。
User 1
金田さん
音の色や品質に関しては、我々のグループはかなりうるさいところがありまして、下手に色をつけてしまうと、クリエイターが狙っている音がヤマハによって染められてしまう恐れがあるんです。原音忠実というのは、「クリア」と言えば伝わりやすいかもしれませんね。この考え方は、楽曲製作をしたいユーザー向けのインターフェースの「URシリーズ」でも一貫して大切にしています。
User 1
白井さん
そうそう。音色については、昔から「ホワイトキャンバス」や「トランスペアレントな音」といった考え方をしていて、何も加えないことを大切にしてきました。

── トランスペアレントな音とは何ですか?

User 1
白井さん
「トランスペアレントな音」とは、「透明な音」、「色付けのない音」とも言われ、入力された音をできるだけ忠実に出力する音のことです。
User 1
金田さん
それが結果的に、キラキラしているといった印象につながっているのかもしれませんね。

── なるほど。

User 1
白井さん
だから、悪い言い方をされるときは、キャラクターがない音と言われることもあるんですが、実はそれが理想的な状態です。お客さまのクリエイティビティをいかにサポートするかが至上命題なので。
User 1
金田さん
個性はクリエイターに出してもらうものだと思っています。

ユーザーと歩むAGシリーズのこれから

── 今後のAGシリーズについて展望をお聞かせください。

User 1
白井さん
先ほどもお話ししたように、ユーザー層自体がだいぶ変わってきたという実感があります。今のAGシリーズの仕様は10年前に考えたもので、2世代目でも基本的にはそのまま踏襲してきました。
でも、さすがに10年経つと、そろそろコンセプト自体を見直す時期に来ているのかなと感じています。たとえば、まだツマミが多い構成だったりするので、次の展開ではユーザーエクスペリエンスをもう一度ゼロから見直していきたいと考えています。

── ありがとうございます。それでは、これからAGシリーズを使ってみようかなと思っている方に一言お願いします。

User 1
白井さん
使いたいように使ってくれて、いいでねって思ってます。

── 「いいでね」というのは?

User 1
白井さん
浜松の遠州弁で、いいですよ、です(笑)。幅広くいろんな人に使ってもらえるように考えているので、こちらから「こう使ってください」とかは全然ないんです。
うちの商品は、設計検証や品質保証を何重にもやっています。だから、ちょっとやそっとじゃ壊れないし、使い方を間違えたらだめになるような製品でもない。全然びびらずに使ってもらいたいなって思います。

── 確かに、これだけいろいろジャックが並んでると、間違えて挿したらショートしちゃうんじゃないかと思っちゃうんですけど、そんなことはないと。

User 1
金田さん
いろいろいじってもらって問題ないですし、ゲインはここにしなきゃいけないという決まりもありません。自分の声に合うポイントを聞きながら探してもらえれば。
User 1
白井さん
そうですね。音に関しては、うちとしても自信を持って届けている部分なので、そこは安心してもらって大丈夫です。だからこそ、使う方それぞれのクリエイティビティをしっかり発揮してもらえたら、こちらとしてもすごく嬉しいです。
User 1
金田さん
使い方を間違えたからといって壊れるわけではありませんし、もし設定が分からなくなったら、一旦初期化してもらえれば工場出荷時の設定に戻せます。

※参考:初期化(ファクトリーリセット)の方法

── 今回は10周年ということで、10年間ずっと使っている方にも一言いただけますか?

User 1
白井さん
まずは、ありがとうございます。きっと、あまり壊れていないはずです。
これからも新しい商品を企画していきますので、次の10年もよろしくお願いします。
User 1
金田さん
使い続けてくれた方がいたからこそ、AGシリーズが定番と呼ばれる存在になったと思っています。AG06やAG08の完成度も、そうした声に支えられて高めることができました。配信文化そのものが盛り上がり続けているからこそ、我々も次の製品を作ることができます。愛用し続けてくれて、活動してくれてありがとうございます。
User 1
白井さん
うんうん。初心者の方が選ぶときって、周りの人が使ってる、知ってるっていうのがすごく大きいらしいんですよ。それって、うちがどうこうというよりも、ユーザーさんたちが使い続けてくれているおかげなので、本当にありがたいことです。
ライブ配信という仕組みのおかげで、これまで活動できなかった人たちがオンラインで表現できるようになっているのを見ると、すごくいいなって思うんですよね。
最近のユーザーさんだと、寝たきりのピアニストの方がいて、ピアノを横になって配信しながら演奏してるんです。そういう姿を見ると、作ってよかったなと思いますね。
User 1
金田さん
今までとは違うステージを用意できたのかなっていうところを、お手伝いできたことは本当にありがたいです。
User 1
白井さん
そうそう。活動の幅が広がっているのは、本当にいいことだなと思っています。そういう方々の活動は、今後も応援していきたいです。

── 「キャラクターがない音」と言われることもあったと伺いましたが、今日のお話からは、その透明な音の裏にある信念を感じました。

貴重なお話をありがとうございました。

開発チームのみなさん

インタビュー:坂本 祐介
文:山口 美里
写真:住友 順

この記事を書いた人

               

ストマガ編集部

「ストリーマーマガジン」は、VTuberや配信クリエイターに興味がある方、ご自身でも活動されている方、そしてこれから配信をはじめてみたい方を応援するWebメディアです。 配信初心者さんからベテランさんまで、幅広く楽しめる情報をお届けします。

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